読んだきっかけ
散歩中、近所の本屋さんに置いてあるのを見て、もともと桐野夏生さんのファンなので即購入しました。
ざっくりどんな話?
子供が出来ない夫婦と、金銭のために卵子提供、代理母を引き受ける女性を巡る物語。
貧困と生殖医療の関係
さすが桐野夏生さんです。面白すぎてあっという間に読み終わってしまいました。
生殖補助医療や日本の貧困、LGBTQIA(今ってこんなにあるんですね)について考えさせられました。
主人公のリキは、北海道から上京して派遣社員で医療事務で働いていますが、手取り14万で家賃が5万8千円。残りの8万2千円で生活しなければならない。
毎日カツカツの生活をしていて、代理母になれば1千万円貰えるという条件で引き受けてしまうのですが、妊娠したことがなくて、自分の身体で稼げる方法だと思えば、若い子が選択しても無理はないんじゃないかと思いました。
2度出産を経験している私からすると、あんな大変なことはもうしたくないし、リキは卵子も提供するので、半分は自分の子だとなると、すんなり渡せないよなって思います。母性に関しては人それぞれだと思うので、小説の中で揺れ動いている感じは、同感しました。可哀想なのは夫婦の奥さんで、不妊症で卵子もダメ。生まれてくる子に自分のDNAはゼロになってしまう。自分は蚊帳の外に感じてしまうだろうなと思いました。
お金と倫理の問題
ただ、どこまでが人間が行っても許されて、どこからが神の領域なのかの線引きをしないと、お金さえあればどこまでも人間は傲慢になってしまうのではないかと嫌な気持になりました。
幸い私は自然妊娠で授かりましたが、娘は23週で生まれてしまい、NICUのお世話になりました。娘が生まれるまではテレビで低体重児の番組を見ても他人事でしたが、自分が当事者になってみるとひたすらに娘が無事に育って欲しい、ただそれだけでした。
もし、そこにお金の問題が出てきたら?「保育器に入れるのに1日〇円かかります」「治療に〇円かかります」と言われて諦めざるを得ない状況になったと想像するだけで辛いことだと思います。仮に私に幾らでも資金があるなら迷わず投入するだろうと思います。
どうしても自分の子供が欲しくて、資金も潤沢にあったら、試せるものは全て試そうと思うのが当然だとも思います。ただ、代理母の場合、他人の身体を使って出産というのはやっぱり違う気がします。
調べてみたら、現実に代理母が双子を出産し、そのうち一人がダウン症で、依頼者はダウン症の子は引き取らなかったという記事を読みゲンナリしました。
ただ、貧困が絡んでくると、代理母を仕事として受けてしまうのも理解できます。なので、お金がある人達の倫理観がやっぱり問題なんだよなとか、そんなことを考えさせてくれる小説でした。
登場人物が豊かで面白かった
奥さんの親友のりりこは性的にはマイノリティで春画の絵師さんなのですが、考え方がハッキリしていて面白いし、人間ドラマを通じてお金持ちの傲慢な思考とか、田舎の閉そく感とか、読みながら色んなことを考えました。桐野夏生さんの小説なのに人が死ななかったのも新鮮でした。面白かった!
コメント