作品を観たきっかけ
坂元裕二さん脚本、是枝監督、音楽は坂本龍一さん、安藤サクラさん、田中裕子さん、好きな人達が大集合で、そりゃもちろん鑑賞します。豪華すぎる顔ぶれです。
ざっくりどんな話?
夫と死別し、シングルマザーで息子を育てる母・早織は、息子・湊(みなと)のケガや、水筒から小石が出てきたり、様々な状況から湊がいじめを受けていると確信する。湊を問いただすと、担任教師の保利にやられたと言う。母親は学校へ赴き、校長や保利を問い詰める。
一方で、担任は幾つかの状況から湊がクラスメイトの依里(より)をいじめているのではと疑い、早織にもそう伝える。
学校は母親をモンスターペアレントだと判断し、保利には事実を黙っておくように指示してしまう。
湊と依里の関係が見えてくると、事実は違うものだった。
脚本が凄い
大好きな坂元裕二さんです。もちろん期待していました。期待以上です。本当にこの人は何という人なんでしょうか。
怪物は誰なのかという視点で映画を観ていると、誰もが怪物になりえるとも言えるし、逆に誰も怪物ではないとも言える。
坂元裕二さんの脚本は、どの作品も物事の多面的な部分が表現されていますが、今回は特に繊細に描かれていたと思います。ちょっとした掛け違いで、物事が思わぬ方向に進んでしまう。それは現実にいつ起こってもおかしくありません。自分に置き換えると恐ろしくなってしまう状況が見事に表現されていました。
もう一つ感心した点が、湊くんの父親の死因です。死んだからと言って聖人になるわけではないんですよね。湊くんが父親の死をどう捉えて生きているのか考えると、父親の夢を見た寝起きにいつも涙を流しているのはどういう意味なのかと、モヤモヤしました。やっぱり天才だ!
※以下ネタバレ含みますので、ご注意願います。
子供の世界と大人の世界
湊くんは依里くんを庇って、いじめの犯人を保利先生という事にしてしまいますが、子供の世界を保つ為のちょっとした嘘のつもりだったのだと思います。もし、真犯人の生徒の名前を出すと、依里くんは更にいじめられてしまうかもしれないから、部外者の大人にしてしまうというのは賢い方法だと思います。
ただ、大人の世界はちょっとした嘘をそのままにしてしまうと取り返しのつかない事へ発展してしまうというのが、子供の世界とは大きく違うのだと思いました。
事実を見ない学校
保利先生は事実を説明したいと学校に言いますが、取り合って貰えません。その結果、保利先生はやってもないことをやったと言わされて、納得の出来ない形で辞職することになります。
事実が見えていなかった保利
ただ、保利先生にも落ち度があって、湊くんが依里くんをいじめていたと勘違いしてしまったのは大きなミスでした。
保利先生、悪い先生ではないのですが「男なんだからそれくらい頑張れ」とか「男らしく握手!」などと言ってしまいます。多分単純な人なんでしょう。
趣味が本や雑誌の誤植探しで、物事の表面しか見られないタイプなのかもしれません。
保利の辞職は大人への戒め
保利先生の辞職は、大人代表として罰を受けたのかなと思います。
保利先生の話を聞こうともしなかった校長や他の先生も悪い。事実を見ようとしない、事実を追及してちゃんと説明しようともしない大人の罪が、誰かを追い込んでしまう結果になってしまったのですから。
事なかれ主義の大罪
依里くんは学校でいじめられているだけでなく、父親にも虐待されていた事実があります。その事実を掬い上げられなかったのは大人の怠慢で、学校のいじめよりも見なくてはいけない事実でした。
事なかれ主義、事実を見ない怠慢が命に係わる大罪に繋がる可能性があると考えると、二重にも三重にも罪深い。その象徴が校長先生なのですが、校長先生の過去を知ると同情してしまう部分もあり、誰かを一方的に責めることはできないと思えます。
誰でも怪物になり得る
校長だけではなく、早織、保利、依里くんの父親の立場には誰にでもなり得る可能性があって、それは日常の何処にでも潜んでいるのだと思います。その恐ろしさを描いた作品だと私は思いました。
真実を見ようとしないこと、真実を探ろうとしないことの罪深さよ。
見て見ぬ振りもここに含まれるのでしょう。
これまでの是枝作品との違い
今回は脚本が坂元裕二さんということもあって、これまでの是枝作品とはまた違う雰囲気があったように思います。脚本の内容の影響もあって、不穏な雰囲気が常にありました。
何が起こっているのか分からないモヤモヤの中、子供達は無邪気に過ごしている。子供達の生き生きとした様子を描くのは是枝監督の真骨頂ですね。相変わらず素晴らしかった。
一流の人達が作った作品
必要最小限の音で構成されているピアノの旋律が、映画にピタリとはまっていました。
出演者の演技も素晴らしかったし、一流の人達が集まって出来上がった作品なんだなとしみじみ思いました。どこにも無駄がない感じです。
また一つ、素晴らしい作品に出会えて幸せでした。
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